【食べるしゃべる眠る。】第二話|ぼくと娘との距離
娘:ぼーん!
ぼく:わあっ!
小3の娘は、そのへんにあるモノで工夫して遊ぶ。
オモチャは少ししか買わないので、
片付けきれなくなったり、
出費がかさんでいったりすることがない。
最近の"はやり"は、急に「ぼーん!」と言って
人の顔をのぞき込んで、驚かせる遊びだ。
そのへんにあるモノさえ使わない。
片付けるものがない。
無料。
娘:ぼーん!
妻:あん?
妻の反応は怖いほどドライだが、
ぼくは何度でも驚いたリアクションをしている。
娘の顔を見て笑いあえるのは"お得感"がある。
そんなことを思うのは、最近急に、
娘の心の成長と、距離を感じるからだ。
先日の朝食。
ぼく・妻・娘:いーたーだーきーます!
食べ始めたぼくは、数字と言葉が手書きされた
名刺大のカードを見つけた。
娘の手書き。
ぼく:なにこれ、「ウルっときたら!0120-783-640」
妻:ああ
ぼく:フリガナついてる、「なやみムヨオ」
妻:電話かけたら悩みを消してくれそうな
電話番号を昨日考えててんな
娘:なっ
前夜ぼくが寝たあと、娘が妻に、とある
心のモヤモヤを話して涙ぐんでたらしい。
で、二人で架空のショップカードを作って
盛り上がってたらしい。
ぼく:「なやみムヨオ」はたしか、
"増毛"の会社につながるで
妻:そうなん?
ぼく:もし、ウルっとじゃなくてワーワー
泣いてたら「075-88-640 ワーワームヨオ」
妻:有料なんや
ぼく:号泣対応やしな
「なやみ」について、ここで詳しくは訊かなかった。
娘はときどき、妻だけに打ち明けてる
思いがあるようだ。
最近、ぼくと並んで歩いても、手はつないでこない。
その方向でどんどん成長していくのか。
急に、遠くなったように感じる。
娘にとって今ぼくは、どんな存在なのだろう。
夜、寝室。
妻:おやすみー
ぼく:おやすみ
娘:さっきね、おとうさんが下の部屋にいると
思って「ぼーん!」ってかけこんだら、
だれもいなかったよー
ぼく:ははははは
娘:いると思ってー
妻:ははははは
ぼく:ははははは!
そんなこんなで、夜は更けていった。