【食べるしゃべる眠る。】
最終話|ぼくと妻との夜が更けるまで
妻と娘と三人で暮らしてる今は、
ぼくの人生で「最高の昼間」だ。
まぶしくて目も開ききらないほどの。
でも、いつか娘が巣立ったら。
今度は妻と二人の、「最高の夕方」が
始まると思っている。
ごはんを食べながら、
妻:カレーおかわりは?
ぼく:軽く
妻:この、二杯目をつぐ量で妻の能力が試される
ぼく:ほう
妻:はい
ぼく:ちょうど!
妻:でしょう!
ぼく:ちょうど!
妻:でしょう!
いらんことばっかりしゃべって、
妻:そこのイタリア人のピザ屋、最近閉まってるね
ぼく:そやな
妻:店やめたんかなあ
ぼく:かなあ
妻:イタリアニカエリマース
ぼく:ははは
妻:ショウバイウマクイキマセーン
ぼく:どうなんやろな
妻:ニホンジンツメタイデース
ぼく:はは
妻:ニホンジンショウショクデース!
ぼく:なんやねんもう!
歳を重ねるお互いをよーく見て、
妻:パウンドケーキ焼けた
ぼく:おー焼きたておいしいんやろなー!
妻:そうでもないで
ぼく:いやーおいしいやろー!
妻:少し置いた方が生地が落ち着いておいしくなる
ぼく:そうなん?
妻:うん
ぼく:ほんまにそうでもなかったんや
妻:ごめん
ぼく:うん
妻:盛り上がってくれてたのにごめん
ぼく:うん
やっぱり今みたいに、いらんことをしゃべってゆく。
ぼく:またくちびる割れた
妻:考えたら、体の一部が割れるってそうないな
ぼく:腹筋くらいやな
妻:アゴ割れてる人もいるな
ぼく:でもどっちもほんまの切れ目は入ってないな
妻:はは
ぼく:ははは
妻:昔、何かにおしりぶつけて
「4つに割れるー」って痛がる人いたやんな
ぼく:知らん!
*
妻:アン、ドゥ、トワ
ぼく:うん
妻:メルシー シルブプレ
ぼく:おぉ
妻:今日はなに覚えようかな
ぼく:うん
妻:茶しぶ てなんて言うんかな
ぼく:もっとメジャーどころからいこ
*
妻:寝るとき「ちょっと横になるわ」とは言うけど
ぼく:うん
妻:起きるとき「そろそろ縦になるわ」とは言わへんな
ぼく:ほんまや!
そんなこんなで、夜が更けていったらいいなと願う。