【わたしの愛用品】婚約指輪の代わりに、僕がYチェアを贈った理由
こんにちは、カメラマンの辻口です。
みなさんのご自宅にも必ず椅子はあるかと思いますが、
我が家にも「Yチェア」という2脚の椅子があります。
インテリア界隈ではお馴染みの椅子ですが、
我が家のYチェアは、1年ほど前に「婚約」の
記念に贈ったものです。
こんな話をすると、常識のある人からは
「婚約指輪の代わりに、椅子なんて」と
呆れられてしまうでしょうか?
でも、1年たった今では「椅子を贈るのも、
案外悪くないですよ」とおすすめしたい
気持ちのほうが強いかもしれません。
語り尽くされた印象のあるYチェアですが、
個人的で他愛もない話を通して、いろんな方に
この椅子の魅力を改めてお伝えできれば幸いです。
Yチェアを1年使って感じた3つの魅力
婚約指輪の代わりに椅子を贈ったきっかけは
「指輪もいいけど、ずっと使える家具もいいよね」
という妻の一言。
その言葉を聞いたとき、真っ先に
思い浮かんだのがYチェアでした。
1年たった今、その直感が
間違いじゃなかったと思えるのは、
- 「名作」という信頼があること
- 毎日つかう「家具」として優れていること
- 時間と共に「変化」していくものであること
という3つの理由があるからです。
名作椅子が教えてくれた価値の在り方
「そもそも、Yチェアってどんな椅子?」
という方には、
- Yチェアのデザイナーである「ハンス・J・ウェグナー」
- 「名作家具」の考え方
の2点について、お話するのが良いかもしれません。
生涯500脚以上の椅子を手掛けた「ハンス・J・ウェグナー」
ハンス・J・ウェグナーは、生涯500脚以上の
椅子を手掛けたファニチャーデザイナーで、
「北欧家具の巨匠」と呼ばれています。
Yチェアはその椅子の中の1つで、デザインされた
1950年から、70年以上に渡り、今でも
世界中で愛され続けているチェアです。
1950年当時、熟練の職人が手作業で制作する
家具の価値が信じられていた時代の中で、
ウェグナーはYチェアに違う想いを込めました。
ひとことで言い表すのであれば、それは
「良い椅子を、できるだけ多くの人や暮らしに」
というものです。
機械による木工家具の大量生産を得意とする
「カールハンセン&サン社」と出会ったウェグナーは、
機械作業でも優れた椅子を安定して生産できるように
椅子をデザインしました。
それがYチェアであり、そこに「名作椅子」と
呼ばれるようになった理由があります。
「名作」と呼ばれることの価値
例えば「Yチェア」という愛称の由来になっている
Y字の背板は、意匠的な意味合いではなく、
機械加工に適した形を追求したものだそうです。
Yチェアについては過去にずいぶん調べましたが、
そのデザインのすべてに意味があることを知ってから、
強く興味を惹かれるようになりました。
当時、職人が手作業で家具を作っていた
北欧の名高い家具工房の数々は、時代の波におされ、
今ではそのほとんどがなくなっています。
Yチェアが今日まで愛され、名作と呼ばれているのは
「優れた椅子として求められ、作り続けられる
ようにデザインされていたこと」が大きな理由です。
世の中には「名作」と呼ばれる家具がたくさん
ありますが、明確な定義はありません。
だからこそ、名作と呼ばれるものには
それぞれに確かな理由と価値があると思うんです。
僕が大切な人への贈りものとして名作家具が良いと
考えたのは、そんなふうに歴史に証明された
信頼感があるからでした。
まいにち、必ず使うものだから。
他にも、贈りものとして椅子を選んだのは、単純に
「必ず毎日使うものだから」という理由もあります。
贈りものをするときは、大切にしてもらうより、
気兼ねなくたくさん使ってもらえるほうが
僕は嬉しいと思っています。
なので、ただ価値があると思えるだけでなく、
家具として使いやすいものか、ということも
大事にしました。
仕事柄、Yチェアには何度も座ったことがあったので、
座り心地にも優れていることは知っていました。
体をぐるりと囲み、高い位置で腕を支えてくる
ハーフアームと、体に馴染み、余裕を
感じる広さをもつペーパーコードの座面。
最も語り尽くされている部分ではありますが、
特に気に入っているところを2つだけ
お話しておきたいと思います。
背板と同じ角度に削られたポール
Yチェアのアームになっているポールは、
右から左へ連なる1本のパーツです。
当然、背中の部分を中継するわけですが、
この部分については、背板と同じ角度にあわせて
ポールが削られていて、なだからな
「面」になっています。
これが、もしポールの「円形」のままだったら、
膨らんだ部分に背骨があたって「なんか痛い」という
ふうになると思うんですよね。
話してみると当たり前のことかもしれませんが、
こういう細かいところにウェグナーのこだわりを
感じますし、なにより、この面の処理の仕方が
とても美しいな、とよく思います。
「ペーパーコード」にも、実は違いがある。
ペーパーコードというのは紙を撚った
紐のことですが、そうした素材をチェアの座面に
使うのは、それほど珍しいことではありません。
なので、インテリアショップや飲食店でも
ペーパーコードのチェアに出会うことがあるのですが
僕が驚いたのは「ペーパーコードにも、
座り心地の違いがある」ということです。
簡単にいうと、Yチェアのペーパーコードは
体への馴染みが良いように感じます。
もちろん、椅子や座る人によって違いはあると
思うのですが、座り心地の良くない椅子と出会うと、
何だか損した気持ちになるんです。
同じ時間を座って過ごすなら、
自宅のYチェアの方が良いな、と。
座って過ごす時間にも価値の差が生まれることを
教えてくれたYチェアは、やはり椅子としても
優れているのだと僕は思っています。
木工家具には、暮らしの足跡が表れる。
僕がYチェアを贈った最後の理由は、
木工の家具が、生活の中で「変化」
していくものだからです。
「経年変化」という言葉がよく使われるようになって
久しいですが、木は切られた後でも「呼吸」を
していて、時間の経過で色濃く変化していきます。
それだけでなく、木工の家具には「暮らしの足跡」
が残っていくと僕は考えています。
僕がよく座っている方のチェアは、手すりの
部分だけが既に濃くなり始めています。
これは、アームによく手をつく癖があるからで、
触れることが多い場所は、手の油分が
染み込んでいくので、こうなります。
(これだと、足跡じゃなくて手跡ですね。)
妻がよく座っている椅子のアームは、きれいなまま。
椅子は並べておくことが多いものですから、
何だか恥ずかしかったりもするんですが、
この分かりやすさが可笑しくもあります。
他にも、妻が掃除をしたときに、うっかり漂白剤を
Yチェアの座面に垂らしてしまったことがありました。
「ごめんなさい」なんて真面目に謝られましたが、
僕はオールオッケーです。だって、それこそが
気兼ねなく使える「椅子」を贈った理由なのですから。
そんなふうに、この椅子には
これからも時間の経過と、暮らしの足跡が
残っていくのだと思います。
「そういえば、こんなことあったね」と、
椅子の傷や、汚れや、古さを嬉しく思えたら。
そんな、10年後が楽しみになるものって、
大切な日に、大切な人への贈りものとして
けっこう良いなって思いませんか?
婚約指輪の代わりに、
僕がYチェアを贈った理由
個人的で、他愛もない話にお付き合いいただき、
ありがとうございました。
話をまとめると、僕がYチェアを選んだのは
- 「名作」と呼ばれる理由に共感したから
- 「座り心地」がとても良いから
- 10年後が楽しみな「変化するもの」だから
という3つの理由からでした。
「家具もいいかもね」というひと言は、
インテリアが好きな僕のために、妻が
してくれた気遣いだったのかもしれません。
でも「この椅子にして良かったね」と喜んで
くれているので、1年経った今では、自信を持って
こんな話を堂々とできるようになりました。
ちなみに、リセノにはYチェアの愛用者が
たくさんいて、他にもいろんなエピソードが。
よければそちらの記事も御覧くださいね。
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そういえば、最近「結婚指輪」を選びにいったときに、
店員さんに婚約指輪の話をしたら「指輪の代わりに
椅子といえば、〇〇の映画みたいですね」と
いわれました。
他にもそんなこと考える人がいるのかと、
すごく映画の内容が気になるんですが、
どうしてもタイトルが思い出せないんですよね。
もしご存知の方がいらっしゃったら、
ぜひ教えて下さい。